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第4話 非常識

Auteur: 山雨 鉄平
last update Date de publication: 2025-05-22 00:21:34

 凛太郎は、意識を失って公園の地面に倒れこんだ水内の手からナイフを奪うと、折り畳み式の刃をパチンと柄の中にしまって、「ポイッ」とつまらなさそうに遠くに投げ捨てた(良い子は真似しちゃいけません)。

「これにて、一件落着…」

とは、いかなかった。

ドロリ、と、水口の口から黒い液体のようなものが流れてくる。あとからあとから湧いてくるその黒い液体は、意志を持っているかのように動き、ある一つの形を成そうとしていた。若い男だ。が、おかしい。それ以上にどこか違和感がある。よく見ると、頭から、2本の鋭い角が生えているではないか。

「…鬼?」

千沙都の脳内パニック経験値が、またしても更新された。

男の鬼は水内の体からやや離れたところで完全な姿を形成すると、口を開いてガラの悪い台詞を吐いた。

「そこのヒョーロク玉。お前、秩父でレミッキと一緒にいたヤツだな。龍神憑きだったのか」

「口の利き方を知らん奴じゃな。おぬし… 虎熊童子《とらくまどうじ》か」

この鬼は、ちちぶ子ども未来園にレミッキを襲撃したものの、神獣のアロンとユマとの戦いを避けて逃げた鬼だった。

「俺を知ってんのかい。どこの龍だ、てめぇ」

「鬼のくせに儂を知らんのか。さては下っ端じゃな。お犬様を前にして逃げるくらいじゃもんなぁ」

「あんまり、嘗めた口叩くなよ」

虎熊童子と呼ばれた鬼の姿が突然消えた。かと思うと次の瞬間、いきなり九頭龍凛太郎の目の前に瞬間移動してきた鬼は、大きく振り上げた足でかかと落としをしてきた。が、これを難なく躱す九頭龍。虎熊童子はすかさず左の拳をボクシングのジャブのように突き出すが、これも涼しい顔の凛太郎は人間の手のままバシッと掌で受け止める。次の瞬間、龍神形態になった反対側の手が鬼の顔面をとらえ、鬼の顔面は苦痛にゆがむ。相当、戦力には差があるように見える。

「拳闘(けんとう)勝負か?望むところじゃ」

「…クソが!」

虎熊は、肉弾戦では九頭龍に勝てないと踏んだのか、一旦勢いよく後ろに飛びのき、距離を取った。片腕と両足をついて着地する。勢いのあまり、ザアッと着地地点からさらに後ろに滑ってゆく。

 体勢を立て直して立ち上がった虎熊は、おもむろに懐から刃物を取り出した。その小さな刃物は変形しはじめたかと思うと、見る見るうちに巨大な鉄の金棒になった。ちちぶ子ども未来園に襲来したときに担いでいた、あの金棒だ。虎熊はその金棒を手に、助走をつけて凛太郎に突進しながら、十分な殺意を込めて、凛太郎の顔面めがけて金棒を振り下ろした。

「ラァッ!!」

「おっと」

九頭龍凛太郎は金棒の一撃をよけ、地面に当たった金棒の一撃で公園の地面は大きく割れる。すかさず虎熊は横なぎの追撃を放つ。凛太郎はこれも大きく躱して距離をとった。

「おうおう、物騒じゃの」

虎熊は助走をつけて走り、数メートルは飛びあがった。金棒を大きく上段に振り上げ、そのまま振り下ろす。

「死ねえぇーー!!」

対する九頭龍凛太郎は。

「先に武器に頼ったのはそっちじゃからな。文句言うでないぞ」

そう言うと、襲いかかってきた虎熊の体を、···切りつけた。何を使ったのか、早すぎて千沙都の目ではとらえることができなかった。

 金棒を振り下ろした虎熊と、それに切りかかった凛太郎が交錯した。虎熊は自分の手に重みがなくなったのに気づき、ふと見ると金棒が斜めの切り口で真っ二つに切られている。一瞬ののち、ズシリと音を立てて地面に切られた金棒の先の方がめり込む。

「…このクソッたれがぁー!」

さらに一拍置いて、金棒の切り口と平行に切り取られた肩から上の虎熊の体が、ズルリと滑り落ちた。その体は、黒い霧のように空中に消えていった。

「根の国でおとなしゅうしとれ」

凛太郎は、鬼が消えた虚空にむかって呟いた。

 千沙都は、目の前で何が起きたのか、ほとんど分からなかった。とりあえず脅威が去ったらしいことだけは理解できた。水口の動かなくなった体を、複雑な思いで眺める。死んでしまったのだろうか。

「死んではおらん。こやつの脳の記憶だけを儂が喰った。ちょいと荒療治じゃったから、もう自分が誰かも分からんじゃろうな」

凛太郎が言う。

「鬼というのは人間の負の気を喰って自分のエネルギーに変える。この人間のように大勢を苦しめる輩がおると、鬼はそやつに憑依することがある。手っ取り早く負の気が食えるからの。おぬしもこやつにひどい目に遭わされたクチじゃろ?」

「…」

千沙都は目を伏せた。

「すまんかったの」

「? …どうして、あなたが謝るのですか…?」

「まぁ、儂にも責任がある問題じゃからの」

「はぁ…」

「そろそろ気が付くぞ。他人の振りをせよ」

「えっ?」

「う~ん…」

千沙都が戸惑っているうちに、水口が意識を取り戻して起き上がろうとする。

「…大丈夫ですか。飲み過ぎたんでしょう」

九頭龍凛太郎は、今までとは打って変わって、常識的な言葉遣いになった。

「ご自分が誰だか、分かりますかの?」

気を抜くとところどころ言葉遣いが戻る。詰めが甘い龍神だ。

「…ダメだ。何も…何も思い出せない…」

「落ち着いて。記憶が混乱してるんじゃろうと思いますですよ。財布に身分証が入っているはずです。ひとまず、そちらに書いてある住所に帰りましょうかの」

「はい…どうも、ご迷惑をおかけしました」

「大丈夫ですよ。では、お気をつけてな」

「はぁ… どうも。失礼します」

水口は千沙都の方にもチラリと目をやったが、軽く目礼をしただけだった。千沙都は一瞬びくっと怯えたが、慌てて目礼を返した。

 水口は、ゆっくりと公園を出て去っていった。

「ふぅ…今度こそ一件落着、ということでよいかの」

「あの…あの人の記憶が戻る可能性は…」

千沙都は心配そうに尋ねる。

「まぁ、ほぼゼロじゃろうな」

「…本当ですか!」

にわかには信じられない話だが… これで自分は、とうとう過去から解放されるのか。

 確かに先ほど、千沙都とそう年齢が変わらないであろうこの男は、顔から上が龍に変わった。鬼とも戦って切り伏せた。あの鬼は――たしか『虎熊童子』と呼ばれていた気がする――切られると消えてしまったが、死んだのだろうか… 脳のキャパシティを超えたことを、今日の一日であまりにもたくさん体験している。一旦、常識はすっかり忘れた方がいいのかもしれない。

 そんなことを考えている千沙都に、九頭龍凛太郎は問いかけた。

「さて。これからどうする?」

(つづく)

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